暴力的なダメ親が原因のうつ病 (2)

「父は、気に入らないことがあると、すぐカッとする人でした」。そう語るこの人は、今でも父親と似たタイプの人を見ると、体が震えて上手く話せなくなる、と言います。 ...

「父は、誰もが知っている大企業に勤めていました」。営業部長にまで上り詰めた会社人間だったそうです。「父は、外面のいい人でした。外ではニコニコ笑って、周りの人を笑わせるようなことも言って。むしろ腰が低い印象です。会社や取引先からの信頼は厚いようでした。でも家では違いました」。

気に入らないことがあると、暴力を振るったと言うこの父親。「絶対服従でした。うるさいことばかり言うので、父を無視したら、何だその態度は！俺をバカにしてるのか！と部屋の片隅に追いやられるようにして、何度も蹴られ殴られました」。

そういうことがあるたびに、反省したと言います。「自分の態度がよくなかったんだな、と思いました。子供だった私には、暴力振るうなんて最低だ、父が謝るべきだ、なんて発想ありませんでした」。これは、親から暴力を振るわれている子供の典型的な心理。自分が悪い、と思ってしまうのです。

「父が、周囲からの信頼が厚い人だったことも影響しているかもしれません。私には、父が正しく、自分が間違ってるとしか思えませんでした。外では温厚そうに見える父をあんなに怒らせるのは、私の態度がよほど悪いんだろうと思い込まされてしまいました」。暴力的な親は、「いかにも暴力的」な雰囲気でないことも多いのです。それが、子供の混乱に拍車をかけていることは決して少なくありません。

この人は大学卒業後、父親に従って、関連する企業に就職しました。「私には、それしか選択肢がありませんでした」。しかし、１年半で退職しました。「周囲にいる男性は、父と似た雰囲気の人ばかりでした。私は耐えられませんでした」。萎縮して何も言えなくなることがあるかと思えば、頭にきて頭にきて・・どうにも怒りが抑えられなくなったこともあったそうです。

「最終的には、上司に啖呵を切るようにして辞めました。入社２年目です。とんでもない新人でした・・」。この人は言います。なぜあんなに上司に頭にきたのかわからない、と。「父と同じ雰囲気だった上司。私は、父への怒りを、上司にぶつけたのかもしれません」。

あれから15年。今はまったく違う仕事をしています。「ある飲食店チェーンのフロアマネージャーです」。会社を転々とし、うつ病も患い、行きついた先のサービス業の仕事が、この人を変えました。「始めた当初、私は男性客が苦手でした。体が震えたり硬直して、うまくしゃべれなくなるんです。その夜は必ずと言っていいほど悪夢を見ました」。一度は辞めようかと思ったそうです。「ある時気づいたんです。父と似てる人が苦手なんじゃないかなって。自分ではそう思っていなくても、スーツの感じとか、ネクタイの色とか、背格好とか・・『似てる！気をつけろ！』と体が反応してるんだと思いました」。

この人は、それに気づいて以来、体が震えたり、顔が固まってしまったときには、こう自分に言い聞かせることにしたそうです。「父と似てるからだ。ただそれだけだ。この人は、父じゃない。だから大丈夫・・」。そして、そんなことがあった日には、家に帰って、自分に優しくするのが日課です。「実家を出、長いこと親には会ってないのに、子供の頃の怖かった経験を、まだ私の体は覚えてるなんて。よっぽど怖かったんだね、大変だったよね、と自分を慰めてあげながらお菓子食べます」。

今でも親には怒っていると言います。「父が私にしてきたことは最低だと思います。そんな私を助けてくれなかった母も同類です」。いつまでも親に怒っている自分をなんとかしたい、悟りの境地に達してしまいたいと、もがいていた時期もあったそうです。「今は、このままでいいと思っています。怒って当然のことを２０年以上もの間、されてきたんです。一生許せなくてもいいじゃないか、と思います。ときどき怒りが湧き上がってきて、辛くはなります。でも、その怒りも自分の人生の一部。そんなときには、自分を癒し、ストレス発散して、その怒りとうまく共生していくつもりです」。

そんな彼女にも、ひとつ後悔していることがあります。「啖呵切って辞めた会社の上司です。私は、あの上司に怒りをぶつけるべきではありませんでした。本当に私が怒っていたのは父だったのですから。父に面と向かって言えないことを言い、傷つけてしまった。暴力的な父親に育てられた私の暴力的な一面が出てしまった瞬間だと思います」。

親から暴力を振るわれてきた子供は、人との摩擦を暴力的に解決しようとします。それはある意味当然です。子供は親の姿を見て育ちます。どんなに暴力はいけないと言葉で教え込んでも、当の本人は、暴力を振るわれて育ってきているのですから。私は最後、この人にこう言いたい気持ちを抑えられませんでした。「あなたが気にしているその過去もまた、父親が原因で起きたこと。もう、自分を責めないで」。

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