決めつけの激しい母親。そこから完全回復した娘の話 (2)

私は、４０歳になっても自分が何をどう感じているのかがまったくわかりませんでした。いつでも無意識に「私はどう感じるべき？」とか「どう感じるのが正解？」とか考え、そう感じるように常に「努力」していました。この食べ物が好きか嫌いか、それさえわかりませんでした。このお菓子が買いたいか買いたくないか、それさえわからない。自分に正直になることができませんでした。できなかった、というより、子供頃からそれをしてきてない。「したことがなかった」が正しいと思います。 ...

そんな私も、今は生きづらさから解放されています。

「自分の気持ちに正直になる」ということが無意識にできるようになるまでに５年かかりました。最初の１年は、「本当は私、どう思ってるんだろう？」と考えても、まったくわからなかった。自分でも重症だと思いました。私は、自分という存在を母親に決めつけられ、母親から見た自分が「自分」になってしまっており、自分が自分でわからないんだな、と思いました。

私は一生このままなんじゃないか、４０過ぎて、それを直すのは無理なんじゃないかと思いました。でも人はいつからでも変われるものだと今はつくづく思います。

１年もすると次第に、これが好きなのか、嫌いなのか、やりたいのか、やりたくないのか、などなど、自分の気持ちが少しずつですがわかるようになっていきました。でも次に待ち構えていたのは、恐怖心でした。「私が今、これを好きと思ったら、みんな私のことを嫌いにならないだろうか？」とか考えてしまって怖い。それを口に出せるようにさらに１年かかりました。

それからさらに１年。毎日毎日、何かにつけ「私は本心ではどう思ってる？」と問いかけ、「自分に正直になっていいんだよ。誰も怒らないんだから」と自分を励まし続けました。「ここには親はいない。私がどう感じようと誰もバカにしない。もしバカにするような人がいたら、その人が間違ってる」と自分で自分に言い続けました。

「この人なら私のこと否定しないかも」と思える人に、勇気を出して言ってみたら、人間関係が楽になりました。「あぁこれでよかったのか」と３年目にやっと思えるようになり、少し新しい自分に自信が持てるようになりました。「新しい自分」が定着していきました。今は、何も身構えなくても、自分の気持ちに正直になれます。生きることが楽になりました。

この過程の中で、私がもっとも乗り越えるのが困難だったのは、「本当は親が大嫌い」という正直な気持ちを自分で認めることでした。「産んでここまで育てているのは私（母親）なのよ。だからあなたのことは何でもわかってる」と言っていた母。母は専業主婦で子供の教育に熱心な人でした。私は母にとって「すべて」。子供心にそれがわかっていたから、私は母をガッカリさせたくないと逆らえずにここまで来てしまっています。

娘に嫌われていると母が知ったら、「せっかく自分の人生を賭けて育ててきたのに・・」と絶望するだろうと思いました。そんなことになったら母がかわいそうだと母の束縛に耐えに耐えてきた私です。それは間違った親子関係ではあったけれど、それを間違っていたと認めたら、自分の４０年も間違えだったということになる。自分のこれまでの人生を全否定しなければならないような気がしました。本気で人生リセットしたいと思い詰めた時期もあります。

だから、私はなかなか親を嫌いになれなかったんだと思う。親が嫌いな自分を受け入れられなかったんだと思う。

それを乗り越えられたのは、４年目くらい。何度も何度も「嫌い」「いや、親だもの嫌いになんかなれない」「でもやっぱり苦手」「いいところだってあるんだから・・」揺れ動くことが毎日毎日、何年も続きました。さすがに悩むことに疲れ果ててしまって、もう楽になりたい・・と思いました。「もういいや、これだけ悩まされている人のことが好きなわけがない。嫌い。大嫌い。それで決定！」と思いました。自分の気持ちを重苦しくしていたすべてのものがパッと取り払われ、体が軽くなった気がしました。

私は、人生リセットしたいとはもう思っていません。私たちの親子関係は間違ってたんだな、とただそれだけ思います。間違ったまま４０年生きてきたとしても、そこに価値がないわけではない。こんなにも長い間、苦労していた私が今の私を形づくっています。私は、以前より人の気持ちを大切にすることができるようになったと思います。その今の私の性格は、これまで苦労してきた過去があるからこそなんだからこれでいい。人生に無駄なことは何もない。過去も含めて今の私が「私」。そう思えるようになりました。

先頭へ戻る