親の介護から逃げることができました (2)

母に父を介護するように説得

夫は、母親に手紙を書きました。父の退院２週間前のことでした。 ...

「お母さんへ。今回のことは大変でしたね。誰よりもお母さんが大変だったと思います。
僕も来年６０歳です。これまでの人生を振り返ったり、人生の最後に向けてのことを考えることが多くなりました。僕は今、以前より〇〇ちゃん（妻である私）と一緒にいる時間を大切にしたいと思うようになりました。最後までふたり仲良くやっていきたいと思っています。
僕は、オヤジとオフクロにも、いつまでも仲良くいて欲しいと思っています。それが僕の一番の希望です。お金もなくてお母さんに何もしてあげられない甲斐性のない息子だけど、できることはこれからも協力しようと思っています」。

母は、ひとり息子である夫の言うことにはホントに弱い。あっさりと父を家に退院させる決心をしました。退院までの２週間は、父を家に退院させるための準備に明け暮れました。父を引き取ることからは逃れた私たち息子夫婦ですが、せめて母の負担が減るようにと、実家に帰って買い物や模様替えを手伝うなどしました。

危うく父を押し付けられるところでした

最初は、母から「もうお父さんとは一緒に暮らしたくない」と言われました。そのことを相談しに行ったら、市の福祉課から「息子さんは引き取れませんか？」と言われました（詳しくはこちら）。次は入院中の病院で、母が父の退院に納得しないとなると、「息子さんは？」攻撃が始まりました（詳しくはこちら）。

本当にいろいろ危なかった。ちょっとでも隙を見せたら最後、要介護父を簡単に押し付けられ、私たちはこの後何年も、毒父の介護に明け暮れるところでした。「オヤジをぜーーーったいに引き取りたくない」と言い続けた夫。今回ばかりは、夫が頑固な性格で助かった、、と思いました。

母に毅然とした態度で接し続けた夫

夫は一貫して、市の福祉課や病院などとのやり取りを、すべて母自身にやらせました。母は人と話をしたり、自己主張したりすることが得意じゃない。８０歳になってそれをやらなくちゃいけなくなったのは、相当の負担だっただろうと思います。でも夫は、母に「こうして」「ああして」「こう言って」「ああ言って」とアドバイスしたり相談に乗ってはあげても、すべて母にやらせました。

私は途中で、お母さんも年なんだし、ちょっと無理なんじゃないかな、と思いました。「私たちが代わりに話つけてあげた方が、いいんじゃない？」と夫に言ったこともあります。しかし夫は、すべて母自身にやらせました。

毒親育ちの夫

人が聞いたら「冷たい人だ」と言うかもしれません。でも夫には夫の「そうしたい」理由がありました。私は、夫のその気持ちを尊重したかった。だから夫のやりたいようにやればいいと思っていました。夫の両親はいわゆる「毒親」でした。

夫は、物心ついたときから、家にひとりでいるのが当たり前の生活をしていたそうです。父親は単身赴任で家にはほとんど戻って来ず、母親は夜勤の仕事をしており、休日は習い事。いつでも冷めた食事をひとりで食べ、夜もひとりで寝ていたそうです。

夫は、それについて恨んではいないそうです。しかしその代わりに、「俺は親の老後の面倒をみる気はない」と昔から言っていました。私は単刀直入に、「自分は小学校にあがるかあがらないかの頃から、自分のことを自分でやってきた。親に頼らずすべてやってきた。だから、お母さんお父さんも、自分のことは自分でやって。・・そんな気持ちなんだよね？」と夫に聞いたことがあるのだけれど、「その通りだ」という返事でした。

結果的にはそれでよかった

しかしその夫の態度は、結果的にはすべてをいい方向に向けたと思います。母は、苦手だった交渉事ができるようになりました。今では、市の人やケアマネさんとか、デイサービスの介護職員の方とかともうまくやっています。

もしあのとき夫が、中途半端に母親に同情し、交渉事を母に代わってやってしまったら、母は「息子にやってもらって当然」と思うようになり、こちらにどんどん甘えるようになったでしょう。

もしあのとき、父をこちらで引き取るような話を進めてしまったら、生まれ育った町を離れ、あんなに嫌がっていた東京暮らしを強いることになったでしょう。父は今、週に２回デイサービスに通っています。介護保険サービスは本当によくできており、「もっと息子さんにも協力してもらって・・」なんてことは言いません。老夫婦だけでも生きていけるように、必要な手助けをしてくれます。

生まれ育ったその土地が大好きで、旅行さえ好まなかった両親。最期をその土地で迎えられるのが何より幸せだろうと思います。そうなって欲しいと思います。それは、私たち夫婦のためだけでなく、両親のためでもあるんだなと思います。

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