87歳父。息子のプレゼントを初めて喜ぶ (2)

はじめて帰省しないことを決めた夫

夫は、「自分が帰省することが何より両親を喜ばせることだから」と言い、毎年必ず夏に帰省をしていました。しかし、今年、初めてやめました。 ...

帰省がバカバカしくなった夫

父は、去年の１２月に、実のお兄さんを失くし、それがかなりショックだったようで、幻覚を見たりわけのわからないことを言うようになり、精神病院に４ヵ月入院しました。今は落ち着きを取り戻し、元通りなのだけれど、母の方が以前の母とはまるで違う様相です。

母は、父を介護施設に入れてしまいたいと、頑なに言い続けています。過去にこういう騒動を起こした父を「頭のおかしい人」と決めつけており、「そういう病気は治らない」とかなり偏見に満ちた目でみて、「また気が狂うに違いない」と思っているのです。

精神病院から、直接老人ホームへ父を送ってしまうしかないか、と思われましたが、経済的に厳しく、しかも父が、お兄さんの死を受け入れたのか、落ち着きを取り戻し元通りに。介護施設に入らなければならない理由がなくなったので、元通りの同居生活をしてもらうことになりました。

夫は母の介護状態

大変なのは夫です。夫は、そんな母のガス抜きをすべく、毎週１回、父がデイサービスに行っている間を見計らい、実家に電話をしています。母はここぞとばかりに、父の不満を夫にぶつけます。夫はただ母の話を聞いているだけ。「うん、うん・・ふーん、なるほどね・・そうなの・・」。その反応を聞いてるだけでも、夫のストレスがいかにたまるかはわかります。

「毎週実家に電話して、オフクロと話してるんだ。帰省しなくてもいいだろう」。夫はそう言いました。私も、それでいいと思いました。

息子が帰省しなことを父が納得するか

しかし、問題は父です。父は、ひとり息子がお盆に帰ってこないことをガッカリ・・いえ、立腹さえするでしょう。「何でアイツは帰省しないんだ？！」「兄貴が亡くなったんだ。手を合わせろ！　墓参りしろ！」とイライラするのは目に見えています。おまけに、ひがみっぽく、思い込みが激しいやっかいな人です。「精神病院に入院していたオレのことを避けてる」「息子は俺のこと、バカにしてる」などと思い込み、母にキレられても困ります。

そこで考えました。「お中元を贈っておこう！」。私がそう言うと、夫は考え込んでいました。「どうせ喜ばないと思うけどね」と言いました。「喜ばれるかどうかではなく、私たちの気持ちとして贈ろう。亡くなったお兄さんの写真にお供えしてと伝えてよ。私たちはお父さんのことを想っている、おじさんへのお悔やみの気持ちも持っている、ということが伝わればラッキーだと思おう。何も伝わらなくても、物を贈って悪いことは何もない」。

最終的には夫も「物を送って、おやじの機嫌が悪くならないなら、安上がりだな」と言いました。

息子からのお中元。父の反応

７月下旬の父の誕生日の日にゼリーが届くように手配しました。意外なことに、父は喜んでいたようでした。特にお礼の電話があったとか、そういうことではないのだけれど、母から聞いた話では、今までにない反応でした。

父は届くなり、「兄貴にお供えして」と母に言い、７個入りのゼリーのひとつは亡くなったお兄さんの写真の前にお供えされました。父は母に「お前も食べろ」と言ったそうです。母は、父以上に好き嫌いが多い。それを言ったところで、母が食べないことを父は十分過ぎるほど知っているはずなのに、そう言ったそうです。「息子が送ってくれたんだ。食べろ」・・嫌がってるものを食べるように強要するのはいいことではないけれど、しかしその言葉には、ひとり息子のお中元をうれしく思っている父の気持ちが感じられ、うれしかった。