偏食。好き嫌いの多い母親、その末路。 (2)
夫の作ったものを決して食べない母親
夫は、偏食の母親に元に育ち、寂しい食生活を送ってきたからなのかどうなのか、「美味しいものを楽しく食べたい」という欲求がとても強い。私と付き合っている頃も、デートはもっぱら食べ歩き。好き嫌いのない私と、「食べること」と通じて仲が深まっていった感じがあります。 ...
そして夫は仕事も「食」。夫はフレンチシェフです。
夫はホテルやレストランで働いていましたが、10年ほど前に念願の自分の店を持ちました。南仏料理をベースにした気軽に食べられる洋食レストランです。
息子の食事を「そんなもの」と言った母親
母が偏食であることは、私も十分過ぎるほど知っていたけれど、ひとり息子が店を出したこととは喜んでいるに違いないと思っていました。そして親ならば、夫の作る料理に少なからず興味があるだろうとも。両親は、夫の店に食べに来てくれそうもなかったけれど、せめて写真だけでも、と私は思いました。
私は夫の料理の写真を撮り、帰省したときに母に見せました。「お義母さん見て見て! こんな料理作ってるんだよ」。母は言いました。「・・・うわぁ・・そんなもの・・」。眉間にしわをよせ、「そんな変わった料理、食べたくない」とでも言わんばかりの表情でした。
息子の作った食事を完全拒否
驚きました。「食べろ」と言っているわけではないのです。そんなに「絶対拒否!」みたいな態度取らなくても・・。完全シャットアウトしなくても・・。「こんな料理作ってるんだね!」とか、息子の仕事ぶりに興味くらいわかないの?
偏食の人は気難しい
だからお母さんは、偏食なんだなとつくづく思いました。嫌なものは嫌、すべてに対してそう。好きになってみようとか、興味持ってみようとか、そういう気持ちがない。
夫は、好き嫌いの多い母親に、自分の作ったものを食べてくれることは期待していなかったと思う。でももし、興味だけでも持ってくれたらうれしかっただろうと思う。食べれそうなものだけでも食べて「美味しい」と言ってくれたらどれだけうれしかっただろうと思う。
「好き嫌いが多いけれど、子供の作ったものだけは別! 食べてみた! 美味しかった!」なんてことが起こらないから、母は、ずっと偏食が直らなかったんだと思う。
介護が必要になった母
そんなことがあってから、早15年。母も80歳になり介護が必要な年になりました。夫はひとり息子です。昔は「オヤジはともかく、オフクロに何かあったときには、ちゃんとしようと思う」と言っていた夫でしたが、そうでもありませんでした。
「最低限のことしかしたくない」と言っています。意外でした。私や家族には、今でもとてもとても優しい夫です。夫は最近、ポツリとこう言ったことがありました。「どうせ何をしてやっても喜ばないよ。だから適当でいいと思う。つまらない人だ」。心中察するに余りありました。
食べず嫌いは「食」だけじゃない
母は、いわゆる食べず嫌い。そして「食」以外のこともみんなそうなのです。インターネットが使えないと情報収集に困るだろうと、最低限の環境を実家に整えてやろうと夫はしましたが、「そんなもの」と言って、今だにインターネットとは無縁の生活です。
そればかりか、母は電子レンジさえ使おうとしません。電子レンジを買ってプレゼントしたことがありましたが、まったく使った形跡がないので、結局持って帰りウチで使っています。
改めて電子レンジを贈ろうかと思ったけれど・・
高齢になりお惣菜やお弁当を買ってくることが多くなってきた両親に、最近私は簡易な操作の電子レンジを買ってあげたらどうかと夫に言いました。両親の住んでいるところは、冬、氷点下の日が続く。冬に温め直しができないのは辛いだろうと思ったのです。夫も一度は賛成しました。でもいろいろふたりで話し、考え、結局「どうせ使わないよ。何もする必要ないと思う」と言いました。
母は、使ってみるということさえしない。食べてみようとすることさえないのと同じように。夫には、それが容易に想像つくのだろうと思います。
ひとり息子をあてにしている母。でも・・
母は、介護の必要な父とふたり暮らしで老々介護状態。ひとり息子である夫に「ほかに頼れる人がいないの」などと言い、かなり頼りにしているようです。しかし、本当に息子の助けが必要になった今、夫は、そんな母に手を貸すつもりがない。ケアマネージャーさんに相談してやっていって、という態度を取り続けています。
私はそんな夫を「冷たいね」などと責める気には到底なれません。子供の頃から「お母さん、これ、美味しいよ」などと言っても迷惑そうな顔をされるだけだった夫。家族でひとつの食卓を囲んだ楽しい夕食の思い出などひとつもないと言っている夫。手土産を持って行っても、それに手をつけたことのない母。電子レンジを買ってあげても、使ってみようとさえしなかった母。そして、自分が店出している料理を、「そんなもの、とても食べられない」と言った母。
ひとり息子から優しくされることなく、最期を迎えればいいと思う。それが、偏食だった母の、偏食を直そうとすることが全くなかった母の、当然の末路なんだと私は思う。
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